瀧口 あさひ
サッカーボール型分子、フラーレンは超伝導性を示したり、太陽電池の材料に活用されたりと、とユニークな物性を示します。フラーレンは1985年に発見され、1990年には黒鉛に高い電圧をかけて60個の炭素が一気に組み上がる、フラーレンの大量合成法が発見されました。しかし高電圧をかける特殊な方法ではなく、普通の有機化学のように炭素を少しずつつなげてこの分子を合成してみたい、と多くの有機化学者の挑戦心をかき立てていました。
そこに登場したのがL.Scottです。彼はフラーレンの展開図にあたる分子を合成し、そこから組み立てようとしました。一枚にむいたみかんの皮をつなげて元に戻すイメージです。この「みかんの皮」は今までによく知られた有機反応を使って合成できます。彼はそれが上手く組み上がるように二つの工夫をしました。
まず「みかんの皮」の適切な位置に官能基を付けました。これがフックとなって、「みかんの皮」があべこべにつながらないよう目印になります。次に、フラーレンは丈夫な分子で元になる「みかんの皮」も丈夫で固い構造なので、簡単にはみかんの形に丸まりません。そこで真空中で瞬間的に高温にさらす激しい条件でギュッと丸めました。
こうして2002年に合成に成功したのをきっかけにこの分野の研究が加速し、より温和な条件でのフラーレンの合成法が開発されたり、他のナノカーボンについての研究も進んだ点でScottの研究は有機合成化学において大きな意義があります。